江戸日本橋に店を構える呉服商「浜田屋」は主人藤兵衛が一代で築き上げた、年間売上五万両は届こうかという江戸有数の豪商だ。 この藤兵衛の唯一と言っていい趣味道楽が「珍奇な樹木を愛好すること」だ。趣味が高じて『非常草木のお化けに魅せられて旅へ心誘われていく』(第五章 掬の力)。こうして藤兵衛は後妻たき、お供の手代左七と下男下女を連れて、この世の不思議を持つ草木を訪ね歩く旅に出る。 村田喜代子 『お化けだぞう』(潮出版社)を再読する。 『お化けだぞう』を再読する経緯については、このブログの「気になる本」2012年4月19日を参照。 昔も今も、この世には(あの世にも?)尋常ならざる<お化け・摩訶不思議な世界>は至る所にありそうだ。テレビでは<お化け・摩訶不思議>の類の番組は常に一定程度の視聴率を稼ぎだしている。 江戸の豪商「浜田屋」主人の藤兵衛は草木の<お化け・摩訶不思議>大好き人間ってわけだ。 「左七の故郷伊勢山中には倒れているが、立ちあがり、歩きだす松がある」(第一章)、 「日光山中には人毛が生える樹木がある」(第二章)、 「陸奥には「草毬」と呼ばれる地をさまよい歩く草がある」(第三章)、 「伊豆天木山中にある1本の杉の大木が叫びわめく」(第四章)、 「浜田屋の庭に咲く引き抜けない10年目の掬」(第五章)、 「魚津の海には樹木の林がある」(第六章)、 「作物が大きくなる豊穣の村。だが、欲に目がくらんだ村人たちは豊穣の土地を荒廃させてしまった」(第七章) 「藤兵衛と左七の目の前で男女の馬子二人が楠の中に入ってしまった。その後村人たちは黒毛と栗毛の二頭の馬を探し求めた。」(第八章)、 「信濃の国では凶作の年に限り、昔から穀雨が降る。 一行は信州沓掛村に出かける。 タキが見たのは野良仕事をしている貧しい地元の女衆が刈った蕎麦を風に乗せて空に送ろうとしている光景だった。わけを聞くと「天の米蔵へ送る」とのことで、こちらが食べるものがないときには返してもらうとのこと。タキは理解した。 「五穀は巡るのか。風に乗って貧しい村々を、天を伝い巡って行くのだろう。どこかで空へ放つ手と、どこかで空から受けとる手がある」(第九章)、 「藤兵衛の草木を愛でる趣味の師、羊斉が死ぬ。通夜に旅姿の百姓たち7.8人がやってくる。遠方から来たらしく百姓たちのお国言葉はてんでバラバラだ。藤兵衛や左七は草木の味方である羊斉の死に際して、彼らは「草木の一類」ではないかと疑う。葬式には3人の僧侶がつく。読経をあげる一番若い坊さんは何故か泣きじゃくる。葬儀の翌日、大変なことが判明した。読経をあげた3人の僧侶は誰もしらない坊さんで、3人に渡したはずの御経料のはいった包みがそのまま残されていて、包みからは青い杉の一房と、小さな葵の葉が一枚が出てきた。 泣き虫坊主の葵が、二本の杉の木に連れられて葬儀にやってきたのだ。」(第十章)、 そしてラストは 「異国の珍しい植物図を見るため、長崎に出向く藤兵衛一行。なんの手違いか、長崎出島でタキは出国する異国の船に乗ってしまう。 いや、手違いなんかじゃないのかもしれない。 没落旗本の娘で天涯孤独の身のタキは「わたくし一人でまいりますわよ」と藤兵衛の心の中で言う」(第十一章) 目次 第一章 立ち上がる木 第二章 生え出ずる黒髪 第三章 さすらう草 第四章 叫喚する杉 第五章 菊の力 第六章 竜宮樹林 第七章 おおいなる豊竹の村 第八章 馬の樹 第九章 天くだる五穀 第十章 弔いの木 第十一章 海を渡る欄 『お化けだぞう』は日本の湿気と空模様に包まれた、どこか穏やかな日本の森や山、田畑と街角。そしてそこに暮らす人々の遠く懐かしい匂いを醸し出す本だ。
by marifami
| 2012-05-17 22:55
| 読書
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